そむたむログ

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【書評】「MUJI式 世界で愛されるマーケティング」/ 増田明子

世界中でヒットする商品を生み出す"MUJI"のマーケティングの秘密とは?

「人をダメにするソファ」(商品名:体にフィットするソファ)や半透明の収納用品など数多くのヒット商品を生み出してきたMUJI(本書では無印良品のことを海外店舗の看板名である"MUJI"で表記)
MUJIならでは」の独自性が高い商品がどのように生み出されているのか、本書でその商品開発の考え方を知ることができます。
個人的には一般的なベッドフレームと違って省スペースな「足つきマットレス」が好きです!

本書のポイント

この本では無印良品の商品開発やコンセプトについて、過去に実際に無印良品の商品開発に携わり、今は研究者となっている著者による解説を読むことができます。アカデミアのバックボーンを持つ著者のため、随所に入る「解説」ではマーケティング理論を用いて解説されています。
MUJIファンはもちろん「グローバルに進出する小売業界の企業の1つとしてどのようなマーケティングをしているのか?」を知る上でもおもしろい本かなと思います。
その成り立ちから消費文化に対する「アンチテーゼ」があるようで他の企業と異なる独自な点があると思うので、他企業の書籍と比べて読むとより考察が深まりそうだなと思いました。

著者のプロフィール

千葉商科大学人間社会学部准教授。上智大学経済学部経営学科非常勤講師。マーケティング、消費者行動論、国際経営論を担当。1996年早稲田大学商学部卒業。住友商事勤務を経て、2002年イタリアのミラノにあるIULM Universityに留学し、Master in Retail Managementを修了。ミラノ在住時の2004年に、現地企業によるMUJI商品の輸入販売を企画し、それがきっかけでイタリア1号店となるMUJI ITALIA(ミラノ)の開店プロジェクトに参加(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

本書第9章に詳しく書かれていますが、イタリア在住中に現地企業のインターンシップの課題で「何か日本との商売を立ち上げろ」と言われたところからMUJIの商品がイタリアでうけると確信して日本のお客様室にメールを送るあたりは著者の行動力の高さに驚かされます。

MUJIの「シンプル」はどのように形作られているのか

「これ『が』いい」ではなく、「これ『で』いい」にする(MUJIのコンセプトとは)

本書で一番印象に残る図がこちらではないでしょうか
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 普通、人が何かを選択するときには、「これ『が』いい」という、より好みにぴったりのものを選ぼうとする。だから商品開発をする側も「これ『が』いい」を追求する。それはマーケティング的な発想だ。「これ『で』いい」というMUJIの思想は、「これ『が』いい」というマーケティングの発想とは、考え方が違う。

図と本文はこちらの記事からの抜粋です。著者の記事なので本書のエッセンスがコンパクトにわかります。
business.nikkei.com

普通商品を作ろうとするとき「差別化」を考えると思っていました。確かに最大公約数的な商品づくりは市場の規模は大きくなりますが、一歩間違えれば選ぶ理由もないので全く売れないということになりそうです。なかなかマネしずらいやり方だと感じました。

MUJIの開発者が考えていること(コンセプトからどのように商品を創造するか)

MUJIの商品企画担当者は「MUJIとは何か」を成り立ち・歴史から学び、その上で現在の消費者に役立ち・売れる商品を開発するそうです。
他にも著者がアイディアを生み出すための思考法として「MUJI式のデザイン志向」というものを紹介しており、中でも私は人間共通で役に立つ商品のアイディアを出すための方法として世界中の長く使われてきた日用品に注目するという方法が興味深く感じました。長い年月廃れずに受け継がれてきた日用品はまさに普遍的なニーズを満たす「これ『で』いい」の考え方にマッチしているのではないかと思いました。

方法論は様々ありつつも「MUJIらしさ」を考え抜くプロセスが最大公約数のニーズをとらえつつ「らしさ」を失わない商品を保ち続ける秘訣のようです。

感想

本書で感じたギャップ

本書を読んで一番驚いたのは「ローカライズは最低限」という点です。MUJIでは世界標準のものづくりを志向しており、それは人間的に普遍的なニーズを満たす日用品を提供しているから世界共通の商品として受け入れられるという主張でした。
日用品は生活と密接に関わるところでだからこそ文化的差異が反映されやすい部分なのかなと考えていたので基本的に日本の商品をそのまま海外展開しているというのは驚きでした。
ただし異文化を考慮しないという意味では全くないようでハラルカレーとかも出しています。
www.muji.com

無印のすごさを感じた点

「これ『で』いい」というコンセプトや世界標準の商品づくりを考えていくとなんの特徴もない商品が生まれてしまう気がしてしまうのですが、熱狂的なファンではないいち消費者である私ですら無印商品の商品から「MUJIらしさ」という感じられるというコンセプトの強さがすごいと感じています。
誕生から長い年月が経って担当者が変わっていってもコンセプトの太い幹と「MUJIらしさ」を考え抜く文化が根付いているのが強さなのだなと思いました。

6:最後に

最近無印が欧米で苦戦しているという記事を見ました。記事を読む限りですと、出店戦略や在庫管理の課題にフォーカスされていましたが、売り上げの7割りが東アジアというと「最低限のローカライズ」という商品企画の戦略がやはり近い文化圏の方がウケやすいのかとも思ってしまうのですが実際のところどうなのでしょうか?
toyokeizai.net